クールシニアのウェブマガジン

毎週月・金曜日発行

クールは「カッコイイ」ですが、背筋をのばして歩く60+シニアの情報を集めます。

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エディター

中村 滋 Shigeru Nakamura

BE-PAL、DIME、サライなどライフスタイル雑誌を創刊。

カテゴリ:メディア 

老後本なるものを2冊読んでみました

・日本は高齢化ではなく、まごうかたなき高齢社会です。テレビは日々、長生き、ボケ防止、認知症対策、老化防止、エージングなどの健康番組を流しています。

・そのスポンサーはサプリ会社で、コンドロイチン、ポリフェノール、オルニチンにセサミンなどなどの摂取を勧めます。

・書店に行けば、自己啓発本コーナーがありますが、この手は若者やビジネスマン向けだと思っていたのですが、最近は高齢者向けが増えていて、あまりに目につくものだから最新刊を読んでみました。

・まず手に取ったのは「古希のリアル」という新刊書き下ろしの文庫(草思社)で、著者は勢古浩爾なる人物。この人、知らなかったのですが、洋書販売会社に勤めていたエッセイストとあります。

・何冊も本があって、「まれに見る馬鹿」がベストセラーになったそうです。エッセイとか提言本とかを読まないので気がつきませんでした。養老孟司さんの「バカの壁」を読んだのも、会うことになったからですし。

・で、この本、第2の青春も豊かな老後もセカンドライフも、そんなものはない、嘘っぱちだ、で始まります。

・著名人の同じような本、例えば漫画家・弘兼憲史氏の「弘兼流 60歳からの手ぶら人生」「古希に乾杯! ヨレヨレ人生も、また楽し」は、楽しまなければ損、自立しろ、オシャレであれ、持ち物を半分にしろ、お金に振り回されない、とか微温湯的で幼稚で凡庸な話、とても黄昏流星群の作者とは思えないと一刀両断。

・編集者だった嵐山光三郎の「枯れてたまるか!」は、弘兼本とおっつかっつで、枯れてはいけない、相変わらずの老人よ恋心をもとう、だの、エロスを楽しもう、だのの、すすめであるとこれも容赦ない。

・精神科医の和田秀樹「嫌老社会」での差別される高齢者にならない法については、資格を取る、スペシャリストになる、外部との関係を強める、前頭葉は使い続ける、男性ホルモンは多いほうがいい、お金は使い切らねば損などなど全然新鮮味がないと厳しい。

・このように実名を挙げての快刀乱麻が人気の理由らしく、読者が、勢古節炸裂!とツィートし、結論はわかってる、それぞれ好きにすりゃいいと答えもわかっているようです。

・次に、勢古氏がこき下ろした弘兼憲史氏の最新刊「人生は70歳からが一番面白い」(SB新書)を読んでみました。

・シニア向けを意識してか、文字が全ページ小見出しのように大きく、30分で読めます。冒頭に4つの提案があります。

1:家族や社会との関係を見直して自立する

2:現実を受け入れて自律する

3:どこまでも人生をめいっぱい楽しむ

4:なにか社会に役立つことをして逝く

・今風に言うなら、真面目か!と突っ込みたくなるくらいの直球です。「相手をほめて、ゆずるのがジジイの作法」とか「好奇心を持ち続ける、歴史を学ぶ、完璧主義をやめる」さらに「家を売って小さなマンションに、墓は不要」とか、最近みんなが思っていることで、勢古氏の批判に、いいね!を何回も押したくなります。

・それに、好かれるジジイになる必要がホントにありますか? サラリーマン時代に散々頭を下げ気を遣い、会社の肩書きがあるために本音を言わずに我慢してきたのに、辞めてなお、実るほど頭を垂れる稲穂かなとか、周りに好かれるようにとか、「もう好きにさせせてよ」であります。

・定年後、仕事とかはなにもやらなかったのですが、それを氏のいうようにもったいない過ごし方だと思ったことは全くないです。それに余生、老後を楽しめと言われても、余生・老後とはなにかがわからない。歳を重ねた今があるだけです。何もしない楽しみもありますし。

・それよりも、高齢者に上から目線での提言、提案は難しいです。シニア雑誌の「サライ」を創るとき気を遣ったのは、酸いも甘いも噛み分けた人生の経験者に、どうしたら抵抗なくすんなり読んでもらえるか、でした。

・サライ・インタビューのゲストが超高齢者だった理由はそれです。80歳ぐらいの人物の言なら耳を傾けてくれるでしょう。「90歳。なにがめでたい」です。

・というわけで、勢古氏に一票。ステレオタイプ化したこうしたメディアや著名人の提言は、高齢者には「小さな親切、大きなお世話」であります。

・あるべき過ごし方は一つだけ。ここは勢古氏と同意見、「最低限、周りに迷惑をかけなければ良い」であります。

・もっとも勢古本も、批判、反論がほとんどで、特に役立つことをアレコレ述べているわけではありません。

・第一、古希を超えてのこの二人は、一人は現役の漫画家だし、もう一人はエッセイを書いて印税をもらっているわけで、事件に巻き込まれて無職と称される一般人とは立ち位置が違います。

・というわけで、この2冊に限らず、この手の本を読む必要はどうにも思いつかない、というのが結論です。

・どうしてもという人は、長谷川町子の「意地悪ばあさん」がお薦めです。

次号32日金曜日

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