クールシニアのウェブマガジン

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クールは「カッコイイ」ですが、背筋をのばして歩く60+シニアの情報を集めます。

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エディター

中村 滋 Shigeru Nakamura

BE-PAL、DIME、サライなどライフスタイル雑誌を創刊。

カテゴリ:メディア 

日本の釣り技が飛び抜けて多彩な理由

・雑誌サライの広告企画で久しぶりに夢枕獏さんに会いました。その獏さんの最新刊が講談社文庫の「大江戸釣客伝」上下で、吉川英治文学賞、泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞の3賞受賞という稀有な本です。

・帯に「釣りをしたことがない人でも引き込まれる!」とありますが、それは我々がよく知っている江戸時代の著名人が登場することも大きいです。生類憐みの令で知られる五代将軍綱吉、水戸光圀、浅野内匠頭、吉良上野介、松尾芭蕉に紀伊国屋文左衛門、絵師の英一蝶など元禄時代のオールスターがずらり。

・話は我が国最古の釣り指南書「何羨録」を書いた津軽藩主・津軽采女、それに俳聖・松尾芭蕉の弟子である宝井其角、絵師・多賀朝湖(後の英一蝶)ら釣りに取り憑かれた暇人、遊び人の人間模様を描いたもので、背景に生類憐みの令、松の廊下の刃傷事件、赤穂浪士の討ち入り、元禄大地震という馴染みのある事件が絡んで、それこそ一気に面白く読めます。

・獏さんの釣り好きは有名ですが、この小説を書くにあたって江戸前青ギスの脚立釣りを実際にやったそうです。海中に足の長い脚立を立て、そこに乗って長竿で青ギスを掛けるという半世紀前の初夏の風物詩、なかなか風情のある釣りです。青ギスは舟影で逃げてしまうからというのですが、船でポイントを移動しなくても一か所で釣れるほどいたんですね、昔は。埋め立てで絶滅危惧種になってしまいました。

・本の最後、結の巻に獏さんが面白いことを書いています。「筆者はヒマラヤやチベット、シルクロードなどの辺境から、ロシア、イギリス、アラスカ、南米などの様々な土地で釣りをしたことがある。その土地その土地に、様々な魚と、その魚種に合わせた釣法があり、漁法があるが、それらのどの国々に比べても、日本の釣りには、異常とも言えることがある。それは、鉤の種類の多さである」。

・確かに多いです。タナゴやアユ、コイ、タイ、キスとキリがなく、釣り道具屋にズラリと並んでいます。その理由が采女の何羨録を読んでわかったそうです。遊びとしての多彩な日本の釣り技を発展させたのは、元禄時代の時間を持て余した暇な武士ということのようです。

・釣り好きにはなかなか含蓄のある一冊であります。

次号6月3日月曜日

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